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臨死のバイタルサイン
Wendy 死に際での状況がどうかということを評価する、単に身体的・物理的な評価だけではなくて心理的・社会的な面も含めての評価について語をしたいと思います。まず最初に身体的な面を取り上げます。
患者さんがいよいよ亡くなるときによい死に方だったと本人が思うか家族が思うことができれば、遺族の管理に非常に役に立つのです。身体的な面をきちんと評価するということはいよいよ臨終が近づいたというタイミングを予知するということからも、本人がやすらぎのうちに臨終を迎えることができるという意味からも、また残る家族や親戚の人たちを助けるという意味からも大切だと思います。
一つは脆弱さということです。肉体的に衰えて衰弱してベッドに伏す時間が長くなるということです。QOLと一概にいっても病気が進んで重病になっていくと、軽いときと比べてQOLのもつ意味が変わっていくわけです。ですからQ0Lというのはあくまでも患者さんを主体としてその周りで捉えることであって、世の中全体がどうこういうことではなくて、患者さんの周囲に起きていることだということです。
のどが渇いたら自分でグラスを手に取って水が飲めるのか、トイレに行きたかったら人の助けを借りないでいけるのか、そういうことが非常に重要になってきます。臨終に近いときには看護ニーズは非常に高まっていくわけですから、口腔衛生であるとか褥創の管理などを大事にしていく必要が生じてきます。亡くなる1週間か2週間前に食べるのを止める患者さんもよくいます。食べるのを止めてしまうというのは家族にとっては非常につらいことです。食べてさえいてくれれば生きていてくれるのだと思いがちだからです。食べたくないという患者さんに無理強いに食べさせるのはすべきではなくて、むしろ栄養を他の形でとれるような工夫をすることが大切だと思います。死ぬ間近のときにチューブを入れて栄養を無理にとらせるということは無用です。ところがその患者を愛する家族にとってはいても立ってもいられなくて、とにかく食べてほしいということで、誰がつらいかといって家族がいちばんつらいわけです。ですから心理的・社会的な面でのマネージメントがここへきて重要になってくるのです。
水をとる問題も同じです。死ぬ間近になると患者さんは水さえとりたくない、そのことが倫理的な問題をかもすことがあります。亡くなっていく患者さんにあえて水をとらせることが必要かどうかという研究もいろいろなされています。原則論ですが、脱水状態になってそのためにつらい場合には注射などで経皮的に水を輸液するということがあるかもしれませんが、それよりも口を水で湿すということだけで十分である場合が多いのです。
最後の数日間は便秘が問題になってきますが、それをどう扱うのかということも難しいことです。間際になっていろいろな薬を止めるということで、よく緩下剤を止めるということがなされますが、亡くなる直前でも便秘からくる腹圧の苦しみがあるので、肛門から摘便をすることは大切です。膀胱が膨張していることで非常な苦しみを感じることがよくあります。亡くなる数日前にはいろいろな症状が出てきます。全部を挙げる時間がありませんが、主だったものをとり上げます。
諸症状
痛みがまだあるという可能性を忘れてはなりません。ターミナルの患者の80%がまだ痛みを感じているというのが現実です。呼吸困難が非常に大きな問題となってきます。呼吸困難に至る理由もたくさんありますから、そのマネージメントもいろいろな方法が考えられるので、本人が呼吸困難の感覚をもっているその感覚を解放してあげるということが大切です。呼吸困難の感覚を和らげるためにはオピオイドを使うということと、抗不安薬を同時に使うということで緩和することができると思います。最後にせいぜいという音がしますが、それは周りにいる家族にとっては非常につらいことだと思います。粘液が器官から出てきますが、それを抑えるまたは減らすためにバイオスチンのようなものを使います。吐き気とか嘔吐も最期には起こりますけれども、これは胃が膨張することによって起こることもありますし、それによって不安になって気持ちが騒ぐという状況が生じます。

 

 

 

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